12色程度の水彩絵の具、同じく12色程度のクレヨン、B5あるいはA4サイズの画用紙
色彩ブロットを23歳の自身の問題について語ることが難しい不安神経症の女性に適用した。描写が無理することなく物語を語れるように工夫し、色彩を選定するという作業から始まり、ブロットを作り、扱いやすい物へと調整し、扱いやすくなったブロットに投影・描画し、場面を構成する。そうして構成された場面に、物語を創作する。このプロセスを経ることで、一人称として語れるようになった。
平均年齢24.4歳の男女22名(男性9名、女性13名)にブロックを用いた表現を行ってもらい、その影響を検討した。使用したブロックは、レゴブロックであり、その制作前後に日本版POMSを行ってもらった。
ブロック制作における、性別および経験の有無による気分変容の違いを検討した結果、「活気」と「緊張-不安」において有意な差が見られた。「活気」に関しては、男性においては、経験に関係なく一定の効果が見られたが、女性においては、経験の無い群においてはその効果が認められなかった。また、「緊張-不安」に関しては、女性においては経験に関係なく一定の効果が認められたが、経験の無い男性においてはその効果が認められなかった。男性においては、過去にブロックに触れた経験が無くとも、工作・組立てに親和性が高いものと予測されるため、このような結果が認められたのではないかと考えられ、また女性が男性よりも制作前に「緊張-不安」の得点が有意に高くもなったのではないか。
また、自由記述の結果から、経験の無い群においてはネガティブな感想が現れやすいことが示された。
4年生大学の1年生61名を対象にマガジンピクチャー法、集団個人法によるコラージュ制作を行わせ、グループエンカウンターでのコラージュ制作利用の特徴等について検討を行った。
コラージュ制作の前後と、シェアリング後にPOMSにより感情・気分の評価を行う。また、コラージュ制作後、シェアリング後に振り返りのための質問紙を行った。
エンカウンター全体を通しての気分変容では、緊張・不安の緩和、敵意の軽減、混乱状態が解消されることが明らかとなった。また、コラージュ自体にそのような効果があり、シェアリングはポジティブ気分の変容を維持させ定着させる役割を持つといえることがわかった。また、振り返りの結果、グループダイナミクスの影響によってコラージュの利用が気分変容に関して意味のある役割を果たすことが示唆された。また、コラージュは媒体としてグループの中で場(文化)をも提供してえいる可能性も示唆された。
この論文で、岸本はdouble MSSM(d-MSSM)というものを紹介している。これは、岸本の創案である。
岸本は治療者と患者が同時に一枚ずつ紙を持ち、同時にグルグル描きを行い、それを交換して同時に投影する、という方法を臨床に取り入れd-MSSMとめいめいした。
診察の中で一枚法で行うと、テストとして受け取られる可能性があるが、2枚でやれば対等に紙面と向き合えると感じた。また、グルグル描きをしてから投影が見つかるまでの時間に差があるため、非言語的な駆け引きがなされる。
2枚のA4のケント紙(あるいは画用紙)、サインペン、色鉛筆
それぞれが自分の画用紙に枠付けを行い、それぞれ5つに区分けする。
ひとコマ選び、物語メモ用のコマを残しておく。そして、グルグル描きを行う。その後、互いに紙を交換する。
これを行うと、物語メモ用のコマが残った状態で、自分が枠付けした画用紙が手元に残ることとなる。
所要時間約30分
事例
神経性食欲不振の14歳女性。
両親・弟の四人が俗。母は病気で入院中。父は事務所経営。
初回面接
祖母とともに来室、本人はほとんど無言で祖母が答える。祖母に席をはずしてもらうも、ほとんど発語無し。
バウムテストと風景構成法を行う。絵を描くことはそれほど嫌いではなさそうなので、描画を適用していくことにする。
二回目の面接からd-MSSMに誘う。
初診から二ヶ月後の第九回面接:d-MSSMでは、2番目の投影が二人とも人だった、またストーリーも散歩という共通のテーマで一致した。
この回はひとつの転換点ともいえる。髪を切ったのもここでなんらかの変化が生じていることをうかがわせる。箱庭や描画では転回点で曼荼羅表現が見られることが指摘されているが、この偶然の一致も、それに相応するような布置のひとつと見ることができるかもしれない。
5分割の意味
筆者の面接時間が30分という枠組みで設定されているため。
自分が印をつけたところに物語を書けるため。
割り切れない数字であるため、分割の仕方に個性が出る。心的なエネルギーを注ぐ必要があり、このようなちょっとしたプレッシャーが実は治療へのモメントとなるのではないかと考えられる。
見立て
①分割の仕方 ②グルグル描きの仕方 ③投影ができるかどうか ④物語がつくれるかどうか ⑤投影されたアイテムや物語の内容
番号が若いところで止まるほど病態水準が深い
グルグル描きをしてから投影が見つかるまでの時間に差があることで、その差を埋めるために、以前に行ったスクリブルのネタで乗り切るという選択肢ができる。これは多少のプレッシャーは手持ちの駒で切り抜けることができるような布石となり得る。
治療者側の物語。
相手の様子を観察するというよりは、それぞれが自分の課題に取り組んで、できたものを交換する形になるので、実施中は、相手のことは気配で察知しながら自分の課題に取り組むことになる。視線を一身に浴びないことにより、侵襲を受けない形ですすめられる。
また、治療者も物語をつくることで、治療者も守られるのではないか。
投影
描画というと、描き手の内的な世界を表現したものと捉えられることが多いし、そのような側面も確かにあるが、その反対方向のベクトル、つまり、外の世界からの働きかけに応じて形を与えるという側面もあったのではないか。
山中(2002)『たましいと癒し』収録
事例1 接枝性分裂病者の、とても小説とは呼べない「小説」
事例2 境界例の青年B君の小説 ペダンチック
読んだ小説を話題にするクライエント「窓」
事例3 パールバック『結婚入門』、曾野綾子『誰のために愛するか』、川上源太郎『親の顔がみたい』
ちょうど彼女のそのときに最も必要なアドバイスを小説の中に見つけては持ってくるのであった。
事例4 『No Language but a Cry』、モーリャック『夜の終わり』
大変に優れた言語能力がありながら、ほとんど言葉で自分を語れない、というディレンマに苦しんでいたが、小説の話をするという形で、生々しすぎる内的世界と激しすぎる外的世界いずれにも距離を置けたと思われる。
前者は、内界の直接的表現として、後者は、投影の機制を用いたかたちでの間接的な内界表現として、いずれも、立派に心理療法に組み込まれうるものであることは言をまたない。
文字を媒介とするこうした小説表現をとるものの場合、なかなか、その底流にある、こころの流れを読み取るのは難しく、一種の訓練が必要ではあるものの、そうした方法に慣れれば、これはこれで優れた心理療法の手段となりうる、貴重なものを幾多内包しており、捨てがたいのである。