境界性人格障害をはじめとする人格障害者は他者を感じることのできない寂しさを自分の万能感に満ちた空想で埋め、相手から期待される役割を意識して演じるという彼らの病的な対人関係をそのまま治療構造に取り込み、物語を作り演じるという治療集団として継続させることを可能にした。
入院中の人格障害と診断された者のべ12名による「ディレクターズ・グループ」によって29回のセッションが行われた。セッションは一人が即興で物語の始まりを作り、それを受け全員が物語を続けていき、最後の一人は結末を作る。最初の一人が物語にタイトルをつける。この人がディレクターとなり、芝居が演じられ、その後シェアリングが行われる。
ほとんどの参加者がほかの治療活動には安定して参加できてはいなかったが、ディレクターズ・グループに参加後のメンバーは入院中ほとんどグループを休むことは無く、退院間際には他に治療グループにも参加できるようになっていた。
その参加者の一人、回避性人格障害の23歳男性についての症例が紹介されている。自虐的で空虚な自己と、幼児的万能感に満ちた誇大的な自己とが同居しており、その矛盾を空想的な自己像で補っていると推察された。彼は入院中の12回、セッションに参加し、その間は欠席は無かった。
どんなに破壊的な表現であっても、グループの中では物語という構造に吸収される。
このグループで創造される物語は、破壊的、自虐的であっても、空想的な自己を安全な形で保証し守るものであるという安心感から、彼の空想は形を変えていった。
グループで作られる物語と参加者との関係として、作られる物語のキャラクターにメンバーがそれぞれが強く同一化するという関係が見られた。そのキャラクターをメンバー同士が支えることにより、中断を防ぐことができた。空想を創造性として保証することで、空想は空想として遊ぶことができるようになっていった。
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