古賀は気分状態と同質の特徴を持つ音楽を聴取した場合と、気分状態と異質の特徴を持つ音楽を聴取した場合に生じる気分変化について検討した。
教育学専攻の大学生40名(男性9名、女性31名)を対象とした。被験者をポジティブな気分に誘導するP群と、ネガティブな気分に誘導するN群に分けた。気分誘導はVelten法を用いた。被験者に気分誘導後の自分の気分と最も合う音楽、もしくは最も合わない音楽を選択させた。そのため、最も合う音楽を選択した群をP同質群、N同質群、気分と最も合わない音楽を選択した群をP異質群、N異質群とした。
気分誘導の前後に気分について回答させ、その後4曲の音楽呈示を1分間ずつ行い、被験者に1曲選択させ、その曲を最後まで聴取させた。音楽聴取後に気分と同質感について回答させた。
質問紙は気分については多面的感情状態尺度・短縮版(寺崎・古賀・岸本(1991))を用い、同質感については、音楽に対する同質感、共感・慰め、発散感の質問項目(伊藤・岩永(1999))、聴取音楽に対し感情移入がなされた場合に被験者に生じた気分についての言語報告(船橋(1981))、音楽聴取に関する項目(石川・岡本・戸口・山中・山本(1985)、岩城・田中・堀(1999)、Lehmann(1977))を用いた。
気分について主因子法により因子分析を行い「不安・抑うつ・倦怠」「活動的快」「敵意」「非活動的快」「親和」の5因子が抽出された。次に気分誘導後の得点について、被験者間の2水準で1要因分散分析を行なった。また同質感についても因子分析を行い、「爽快感」「リラックス感」「没入感」の3因子が抽出された。各因子について、気分誘導、聴取音楽のそれぞれを被験者間要因とする2要因分散分析を行なった。
その結果ポジティブな気分状態の被験者が同質の音楽を聴取するとポジティブな気分が増大した。また、気分はポジティブ気分状態の被験者では親和以外の全てにおいて聴取音楽の効果が有意であった。しかしネガティブ気分状態の被験者で聴取音楽の主効果が有意であったのは非活動的快のみであった。また、同質感はポジティブ気分状態の被験者では全てにおいて聴取音楽の主効果が有意であったが、ネガティブ気分状態の被験者で聴取音楽の主効果が有意であったのは爽快感とリラックス感のみだった。
ポジティブ気分状態ではネガティブ気分状態よりも聴取音楽の影響が大きいと考えられる。
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